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なぜ通貨は金利そのものよりも「期待」を重視するのか

Dec 30, 2025 3:12 PM

次のような状況を想像してみてください。中央銀行が金利を引き上げたにもかかわらず、通貨は強くなるどころか弱くなってしまう。直感に反するように聞こえますが、経験豊富なトレーダーは、重要なのは利上げそのものではなく、市場が次に何が起こると期待していたかだということを知っています。FX市場は本質的に先を見据える性質があり、現在の金利水準ではなく、金利がどこへ向かっているのかに注目します。

FX市場は現在ではなく未来を織り込む

通貨は期待に基づいて取引されます。中央銀行が公式に金利を変更するはるか前から、トレーダーはすでに今後起こることを見越してポジションを取っていることがほとんどです。金利決定が発表される頃には、その結果はすでに価格に織り込まれている場合が多いのです。例えば、為替レートにはスポット価格(今日の価格)と、将来の期待に基づくフォワード価格の両方があります。市場が中央銀行が今後数カ月で金融緩和に転じると考えれば、トレーダーがその変化を見越して動くため、通貨は今の時点から下落し始める可能性があります。逆の場合も同様です。

仮に、投資家がイングランド銀行(BoE)は近く利上げを行い、欧州中央銀行(ECB)は据え置き、もしくは利下げに向かうと予想しているとしましょう。公式な動きが出る前であっても、市場がその変化を織り込むことで、ポンドはユーロに対して上昇する可能性があります。実際に発表が行われた際、市場を動かすのは、それがこうした期待に対してサプライズだったのか、それとも失望だったのかという点です。

動きが起こる前に、すでに動いている

市場には「噂で買って、事実で売る」という古い格言があります。トレーダーはイベントを見越して通貨を買い(または売り)、予想されていたニュースが正式に発表されると利益確定を行う傾向があります。もしFRBが来四半期に利下げを行うと広く予想されているなら、将来の利回り低下を見越して投資家がポジションを調整するため、ドルは今の時点から弱含む可能性があります。2025年末には、FRBの利下げを先取りする取引が主因となり、米ドル指数は数年ぶりの低水準まで下落しました。

この力学は、利上げ後にも通貨が下落する理由も説明します。中央銀行が利上げを行ったものの、それが最後の利上げになる可能性を示唆した場合(いわゆる「ハト派的利上げ」)、より緩やかな見通しに合わせてトレーダーが調整を行い、通貨が下落することがあります。例えば日本では、2025年に日本銀行(BoJ)が2度利上げを行ったにもかかわらず、円はドルに対してほぼ横ばいで推移しました。

もしECBが0.50%の利下げを行うと予想されている場合、ユーロはすでにその期待を織り込んでいる可能性が高いでしょう。その後、ECBが実際には0.25%の利下げにとどめた場合、予想より小幅だったことで、逆にユーロが上昇することもあります。一方、予想を上回る大幅な利下げを行えば、ユーロは急落する可能性が高くなります。

ECBが動く前に市場はすでに動いていた

出所:TradingView。すべての指数は米ドル建てのトータルリターンです。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。データは2025年12月30日時点。

EUR/USDは、2025年3月にECBが利下げを確認する数週間前から上昇を始めていました。この上昇は決定そのものによるものではなく、市場が期待に基づいてすでに織り込んでいた結果です。

フォワードガイダンスと見通しの力

重要な手がかりの一つがフォワードガイダンスです。これは、中央銀行が将来の政策について示すヒントやシグナルのことです。そのガイダンスが信頼できるものであれば、中央銀行が実際に行動を起こすずっと前から、トレーダーはそれに応じて通貨を動かします。

利回り格差は、FXの期待を左右する重要な要因です。投資家は、ある通貨で得られる利回りと別の通貨で得られる利回りを比較します。例えば、米国債利回りが欧州の利回りを下回ると予想される場合、ドルはユーロに対して弱含む可能性があります。

インフレ期待や成長見通しも、通貨の動きに影響を与えます。インフレが大きく低下すると予想されれば、市場は将来の利下げを見込み、通貨の上昇余地が抑えられることがあります。2025年の日本円はその好例です。利上げが行われたにもかかわらず、日本の成長見通しが弱いと見られていたため、円は上昇しませんでした。

金利とFXに関するよくある誤解

誤解1:「金利が高ければ、必ず通貨は強くなる」。重要なのは変化の方向性とその文脈です。

誤解2:「通貨は中央銀行が行動したときだけ動く」。実際には、通貨は中央銀行の行動に先立って動きます。

誤解3:「すべての利上げ(または利下げ)は同じ影響を持つ」。予想外の0.5%の利上げは通貨を押し上げる可能性がありますが、通常の0.25%の利上げでは、かえって下落することもあります。

リスクに注意:期待が外れたとき

市場の前提が単に間違っている場合や、突発的な出来事がコンセンサスを崩すこともあります。2024年末、FRBは投資家の予想を上回る0.50%の利下げを実施し、ドルは急落しました。

市場は自信をもって利下げを織り込んでいるかもしれませんが、予想を大きく上回るGDPやインフレ指標が出れば、状況は一変します。

まとめ

成功するトレーダーは、現在の金利だけに注目するのではなく、ストーリー全体に目を向けます。つまり、金利や経済がどこへ向かっているのか、そしてその物語のどれだけがすでに価格に反映されているのかです。すべての利上げや利下げは、その先に何が来るのかという影の中で行われます。こうした集合的な期待の変化に取引を合わせることができれば、常に変化し続けるFX市場の流れを、より有利に乗りこなすことができるでしょう。